殺戮にいたる病/我孫子武丸

殺戮にいたる病/我孫子武丸
オススメ度(83/100点中)
あらすじ、
永遠の愛を掴みたいと男は願った。男の名前は蒲生稔。東京の繁華街で次々と起こる猟奇的殺人の犯人である。くり返される陵辱の果ての惨殺。冒頭から身の凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動の魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。

この物語はエピローグから始まる。プロローグではなくエピローグである。主人公である蒲生稔の逮捕から始まるこの物語はとても読者に対してフェアな作りだと感じた。これから316ページを使って仕掛けられるトリックに対して、まず犯人は蒲生稔だと、著者はいっているのである。勿論自分もそういう心構えでこの本を読み始めた訳だが、まんまと騙された・・・。

話の進行は、犯人:蒲生稔、息子を犯人だと疑う母:蒲生雅子、被害者の知人の元警部:樋口の三つの視点から描かれる。最近『そして誰もいなくなった』や『告白』を読んだので、この書き方は昔からよく使われる手法なのだと思った。『殺戮にいたる病』では、犯行を繰り返す蒲生稔を追う形で、雅子、樋口の時間軸が進んでいく。息子が犯人だと信じたくない雅子と、犯行を止めたい樋口、しかし二人の思惑を無視して繰り返される殺人。この関係が堪らなくもどかしい。
そして、蒲生稔の犯行シーンでは、自身の頭の中にそのシーンが浮かぶ程の残酷で、細部まで表現された文章・・・。苦手な人はここで気分を悪くする人もいるだろう。しかしそれを差し引いても続きが読みたくなる力がこの本にはある。

叙述トリックの名作として名を馳せるこの作品。自身としては少しすっきりしない部分もあるので、人によってはオススメ度の点数が低いと感じるかもしれないが、この本から受ける衝撃は、その人自身がどんな本を読んできたかという経験値にも関係すると思う。

永遠の愛を求めて苦しむ蒲生稔。そして稔、雅子、樋口、三人の時間軸が交差するとき、衝撃の事実が突きつけられる。確信を持って読み進めてきたこの一つの物語が収束するそのとき、あなたの思い描く結末には決してならないだろう。

殺戮にいたる病 (講談社文庫)

殺戮にいたる病 (講談社文庫)