深紅/野沢尚

深紅/野沢尚
オススメ度(65点/100点中)

野沢尚さんの作品は初めて読んだ。というか恥かしながら初めて野沢尚という作家を知った。その分、どういった作品を書く人なのかといった先入観や事前知識は一切無く読み進めることができた。

秋葉家を襲った一家惨殺事件。修学旅行でひとり生き残った奏子は、癒しがたい傷を負ったまま大学生に成長する。父に恨みを抱きハンマーを振るった加害者にも同じ年の娘がいたことを知る。正体を隠し、奏子は彼女に会うのだが・・・。

物語は奏子の修学旅行から始まり、少女の身に突然起こった悲劇が勢いよく描かれている。そして語り手は主人公である奏子なのだが、小学六年生の少女にもかかわらず恐ろしく冷静であり、物事を理解する力が飛びぬけている。混乱している大人たち、そんな彼らの発言の意図を解釈し、彼らに合わせて発言する。そんな描写を見ているとどっちが大人なのか分からない。
パーキングエリアでの行動など、大人であっても思いつかないだろうと思った。しかしもろさも持っている。そういった彼女を構成する要素のアンバランスさが、魅力的でもある。正直、自分の周りにいるのなら会って話しがしたいなと思う。

次に、犯人にも事件を起こした理由があった。それを理解してもらうために、上申書を綴る。それを読むと除々に分かっていく事件が起こるまでの経緯、犯人の心情。この一冊を通じて、この部分が一番文字を眼で追う速度が速かったんではないかと思う。ここに辿り着くまでは絶対的な悪だと印象付けていた犯人への見方が変わってくる。誰が悪いのだろう・・・?

事件発生からここまでの一連の流れは読者をいっきに物語後半まで辿りつかせる勢いと力がある。そして後半は奏子が大学生になり、同い年である犯人の娘に興味を抱いていく。

が、この後半の印象が弱い。前半の衝撃が強すぎて、後半の女子大学生に起こる出来事は物足りなく感じてしまう。終わり方も、失速気味の印象を受ける。

そんな気持ちを抱いて、読んだ高橋克彦さんの解説。高橋さんは、この作品が吉川英治文学新人賞を受賞した際の選考委員の一人だ。『深紅』の第一章と第二章の構成の素晴らしさを強く押し、受賞を支持したと書いてある。そんな彼も、選考評で、「後半が仮に六十点だとしても、前半は二百五十点だ」といっている。

なんだ、この人もそう感じているのか。と思いきや、解説を書くにあたって再読すると以前の読み方がなんと拙いものだったのかといっている。この後半こそが野沢さんが本当に力を注いでいる部分だと。そういった意識を持って読むとまた違った印象を受けるのかもしれない。もう一度読めばオススメ度も上がっているのかもしれない。

作品の真の魅力を感じないまま読み終えたのはなんとも残念なことだが、他にも読みたい本が山ほどある。なので、時間をかけて感性を磨いた後にもう一度読んでみたいと思った作品だった。